「エリック・ホッファー自伝」
著者 エリック・ホッファー  作品社 2200円
「沖仲士の哲学者」の自叙伝

この本は、評論家・立花隆氏の書評によって知った。私の本の水先案内人の一人である。アメリカに在野のこんな哲人がいたのかと、初めて「沖仲士の哲学者」の存在を知った。著者は学校教育を受けておらず、老齢まで長くカリフォルニアで季節労働者、沖仲士の肉体労働に従事する。そのかたわら図書館で独学を続け、50歳を超えて著述活動に入る。ホッファーのプロフィールを見ただけで、その肉体労働から紡ぎだした思想に触れてみたくなった。ホッファーの若き日の季節労働者の原風景は、昔、読んだジョン・スタインベックの「ハツカネズミと人間」、「怒りの葡萄」の舞台と重なる。その時代にはたくさんいたであろうプアーホワイトの一人であるホッファーの描く世界は、生々しく現実的である。だからこそ人は思索し知恵が必要なのだと言いたげだ。
本書は自伝といっても彼の人生模様が詳細に書き込まれた長編ではない。エッセイ風に短い一章節ごとに、その時々の断面が淡く簡潔に描かれている。まるでモノクロームな映画のワンシーンのように。
下記の文章は少なからず、読み手の琴線に触れることであろう。
「人間社会における不適応者の特異な役割というテーマに没頭して、農場で働いているときも、まわりにいる人たちと話している時も心の奥では文章を練り上げていた。人生は輝かしいものに思えた」

(02年8月記)