「お四国さん」の快楽
著者 横山良一  講談社 1600円

根っからの旅人が編んだ四国遍路

久しぶりに(もう何年ぶりだろか)、絶品の紀行文に出会えました。著者は本来、写真家である。「アフリカン・レインボー」、「BALI Haiバリ島写真集」があるが、素晴らしい写真を撮る割りに極端に寡作である。沈黙が長い。しかし、いつまでも余韻の残る作品を撮る人だ。作家金子光晴のアジア紀行文とシンクロさせた写文集「アジア旅人」がそうだった。長くバリに住んでいたらしくガイド本「パリ・パラ」も出している。これがバリ旅行では実に役立つ。その本で彼が文章も軽妙洒脱な人だと分かった。
著者は「20歳。サンフランシスコにてヒッピー暮らし。30歳。ケニア・ナイロビにて写真家となる。50歳。アジア、アフリカ、南米、そしてチベット、バリ島・・・」と30年間世界中をうろつき廻っている根っからの旅人である。ようやく日本に戻る口実が四国遍路であった、という。その目的もふるっている。チベット人やバリ人のように笑顔の似合う人間になれるように、(四国遍路を)歩き続け、祈り続けてみよう、と。さりとて、「ポップドキュメンタリー」をコンセプトに作品を発表している著者らしく、禁欲的になりすぎていないのがよい。程良く力が抜けている。道中、温泉でゆっくり、居酒屋やスナックで一杯、駅弁が大好きらしく各地の駅弁紹介と所々に息抜きがある。
私はこの本で初めて「お接待」という四国特有のシステムを知った。私もアジアを長く旅しており、インドでは修行僧に食べ物を施す場面を日常的光景としてよく見かけた。それと同じような慣習が四国にもあったとは。「お接待は、物のやりとりではなく、気持ちのやりとりだとつくづく思う。(中略)人と人のコミュニケーションの素晴らしさを再確認させてくれる」。歩き巡礼を完結した人に何が一番印象に残っているか著者が問うと、みんな「人との出会いです」と答えたという。
私もいつか「お四国さん」へ、誘われてみたくなった。

(03年1月記)