色街を呑む!
著者 勝谷誠彦  祥伝社   1500円

色街を酔眼で点描する

勝谷誠彦は多芸多才の文筆家である。旅や酒、食にまつわる情緒的なエッセイから
切り口鋭い社会批評コラムまで幅広くやってのけ、テレビ番組のレギュラー・コメン
テーターもこなし、最近は讃岐うどん屋の経営にも参画している。この本はその著者
が全国各地(加えてマニラ、ソウル、パリも)の色街を徘徊した風俗探訪記である。
もと風俗ライター出身であるうえに、サブタイトルが「日本列島やりつくし紀行」
となっているが、それを期待して読む人は大きな肩すかしをくらう。これは性風俗店
探訪記ではない。色街で呑むことが主題である。各地の色街へ赴き、そこで呑み、観
察し、会話した記録である。
「女を置いてある男の欲望を受け止める店というのは、何故か必ず群れる。ある種
の結界のようなものをつくり、人々が日常の営みを行なう場所とは、一線を画す。そ
して、その境界に双方の人々が混在して飲食をする店が存在する」
そんな遊郭の風情が残っているような日本各地の色街を目指し、「日常と非日常、
合法と非合法、ハレとケが混在する」境界に身を置き酔眼で点描する。
著者はこうも書く。
「表情を閉ざしたような、雑居ビルにびっしりとスナックが入る。風情の死に絶え
た色街。今や、どの地方に行っても、こうである。女たちの姿は、コンクリート箱の
中、鋼鉄のドアの向こうに囲いこまれ、街は死んでいるのである」
しぶい!同感、そして共感。色街に潜り込み、そこで交わされる人々の会話を聞き
ながら、酔いしれる。男ひとり旅のリリシズムがたちこめている。でもユーモラスな
部分が多数を占めているので格好つけた本ではない。
私は福岡に住んでいた時に、あの有名歓楽街・中洲にひとりで呑みに出かけていた。
クラブとかスナックではない。ストリップ劇場の真ん前の立ち飲み酒屋である。中洲
で最も安く呑める。ビール大瓶1本330円。ここで人々の会話に耳を傾け、酒を買
いに来る人(夜の姫たちもいた)を見ながら呑むのを喜びとしていた。よくしたもの
でフィリピン人やロシア人船乗りの男たちも、この酒屋が分かりにくい場所にあるに
も関わらず、吸い寄せられるように来て一杯ひっかけていった。場末の安酒場は男ど
もの世界共通の磁場となる。私の大切な聖域であったのだ。
(04年2月記)