マネー・ボール
著者 マイケル・ルイス  講談社   1600円

貧乏球団はなぜ強くなったのか

野球観戦の愛好家にとっては、垂涎の書である。常識を覆すような記述のオンパレー
ドだ。
打者の価値は出塁率で決まる(初球から打ちに行く打者は打率が高くても評価しな
い)。防御率、被安打率ではその投手の力量は計れない。評価するデーターの基準は
与四球率、奪三振数、被長打率だけである。新人発掘はスカウトの実物判定を廃し、
各選手の実戦データーを基準に採用する(従ってデーターが少ない高校生は取らない。
データーの揃う大学生ルーキーに投資する)。
メジャーリーグのオークランド・アスレチックスは近年、コンスタントに好成績を
残している。金持ち球団が豊富な資金力にものをいわせ有名選手を引き抜いて、金で
勝利を手に入れようとする。アメリカも日本も同じ傾向にある。知将・野村克也も近
著『新・敵は我に在り』で「いまの野球は、強くするにはお金がかかる」と明確に述
べている。そんな中で、アスレチックスは選手年棒がニューヨーク・ヤンキースの3
分の1以下でありながら、極めて好成績を維持しているのはなぜなのか。貧乏球団は
なぜ強くなったのか。それを解き明かしていく。
アスレチックスのゼネラル・マネージャーであるビリー・ビーンは、他球団とは
(日本の球団も含んでよい)まったく異なった見地から、球団運営にあたっている。
ハーバード大学経済学部卒の「金融業界で働けば大儲けできそうな秀才」を片腕に据
えて、彼のノートパソコンから抽出された独自の基準データーを基に選手を発掘する。
他球団が見向きもしない選手をドラフトとトレードで集めてくる。まわりが低評価だ
から年棒は安い。安く買って、好成績をあげてもらい、勝利に貢献させる。年棒が上
がる時には、他球団へ売却。さながらウォール街のトレーダーのような手法である。
世間の衆目を浴びない優良企業を発掘し、投資して、株が上がった時点で高く売る。
私個人は、新見地に立つ選手鑑定という戦術に大いに共感。証券マンめいた戦略には
違和感。しかし、この本で今後、日本の野球界でもビリー・ビーンのこの驚くべき投
資戦略はおおいなる注目を浴びることになるだろう。日本にもこのような球団がひと
つくらい出現して欲しい。