無念は力 伝説のルポライター児玉隆也の38年
著者 坂上遼   情報センター   1700円

「淋しき越山会の女王」執筆者の評伝

「伝説のルポライター」の評伝。児玉隆也は「文藝春秋」(1974年11月号)
で「淋しき越山会の女王」というルポを書き当時の田中角栄首相を退陣に追い込む一
翼を担ったとされている。このルポで一躍その名を轟かせたものの、その翌年、38
歳にして死去。彼のルポライターとしての実質的な活動は3年で幕を閉じる。そして、
「伝説のルポライター」というイメージのみが後節に語り継がれた。
私はあるきっかけで、この夏、児玉隆也の「現代を歩く」、「一銭五厘たちの横丁」
、「ガン病棟の九十九日」などその著作の大半を読んだ。そのきっかけとは、ノンフィ
クション作家・沢木耕太郎が生涯唯一、ゴーストライターをした経験があり、それは
児玉夫人の夫への追悼文だったことを彼が著作中で紹介していたからだ。その児玉隆
也の評伝が半年前くらいに出ていると知り、さっそく手にしたのがこの本だ。圧巻は
「淋しき越山会の女王」という作品がいかにしてできたかの裏舞台が克明に描かれて
いることだ。これで伝説にまで昇華した児玉の「地を這う取材」とは、どんなもので
あったかを読者は窺い知ることができる。<児玉は口癖のように「記憶はすぐに消え
ていく、メモしろ、メモしろ、色は、臭いは、動きは、味は、耳に残るモノは・・・」
と若いライターたちに言っていた>。また、三島由紀夫と児玉隆也とが人気作家と婦
人雑誌編集者(児玉)としてじっこんの間柄であったことも詳細にまとめてある。
この評伝で気になったのは、本のタイトルにもなっている「無念は力」の仮説の立
て方自体に無理があるのではないかということだ。伝説のルポライターの無念とは、
本書では、婦人雑誌編集者時代に「角栄の暗部に迫りながらも事前で握り潰された無
念」から敗者復活戦として「淋しき越山会の女王」執筆への起爆剤となった。三島由
紀夫と懇意にしていながら、「最後の最後で認められなかった無念」が婦人雑誌編集
者からジャーナリスティックなルポライターへの転身のきっかけとなった。理路整然
ではあるが、この仮説は、少し強引で無理があると思う。しかしながら、あとがきに
「取材の途中から虚像と実像のとギャップが大きく」と、以外なる虚像の部分も本文
中にきちっと紹介してあるので、全体的に精度の高い評伝になっている。

(04年10月記)