北里大学病院24時間 生命を支える人びと
著者 足立倫行   新潮文庫   440円

総合病院という大組織はどんなところか

祖母(95歳)が家でころんで足を骨折して、総合病院に入院した。それ以来、朝と夜に病院に立ち寄ることが日課となった。大病院に毎日通っていると、
現代日本で暮らしていれば大半の人がいつかはお世話になるこの総合病院という大組織はどんなもんだろか、との漠たる興味が湧いてきた。
今回は個人の身辺雑事からのノンフィク ション作品へのアプローチだ。総合病院に関する作品は、私の記憶に留める中では、この『北里大学病院24時間』しか思いあたらなかった。89年に出版されており、
かなりの年月が経っているが、古さは感じさせない。大病院を見事に俯瞰したもので
ありながら、各持ち場で働く人々の人物ルポでもある。医師、看護士の日常業務ばか
りでなく、カルテの管理者、臨床検査師、病院食の調理師、建物のボイラーなどを管
理する施設課の仕事まで大病院に従事する人々の気持ちの吐露も随所に盛り込まれて
いる。病院とは、医者を頂点とした非常にヒエラルキーの強い組織だと思っていた。
医者が組織の主役であることにかわりないが、この本を読むと、たくさんの脇役の役
どころの人たちがいて、複合的に支えあっていることが分かる。
私は時に病室でこの本のページをめくった。看護士の若い女性が耳の遠い祖母に大
きな声で話しかける。テキパキと脈を取る。元気そうだが目は腫れぼったい。慢性的
に睡眠不足なんだろうな。この本で「看護婦」(出版当時の記載のまま)さんの睡眠
不足にならざる得ない業務形態が説明してある。祖母がベッドから車椅子に移る時に
は、年輩の女性スタッフの方が介助してくれる。この人は「看護補助」という仕事の
人だ。「逞しき助っ人、看護補助」の章にその役割と仕事内容が詳しくある。病院の
夕食は夕方6時頃。おかずも暖かい。病態調理師の章では、いかに暖かいおかずを患
者へ届けるかに苦心する調理師の姿があった。
この本での医師と看護士の日常業務の描写でまったく出てこないのは、携帯電話で
の業務連絡だ。いま私が実際に見る彼ら彼女らは、病室で作業をしていてもひっきり
なしに携帯電話で呼び出しがかかる。そのぶん忙しさが増したんだろうなあ。

(05年1月記)