大仏破壊 バーミヤン遺跡はなぜ破壊されたのか
著者 高木徹   文藝春秋   1571円

大仏破壊が「9.11」の胎動であった

サブタイトルの通りアフガニスタンのバーミヤンにある世界的有名な仏教遺跡がな ぜ破壊されたのかを検証したルポである。著者はNHKの現役ディレクターで、この大 仏破壊もNHK番組制作で映像ドキュメンタリー化された。
本書はその書籍版である。
いまさらアフガニスタンの旧タリバン政権が犯したバーミヤン大仏破壊を取り上げて も仕方あるまい、と考えるかもしれないが、なんのなんの、どっこい、今の世界状況 と太く繋がっている。
「9.11」以前とその以後というような世界観ができている
中で、本書を読めばこの大仏破壊が「9.11」の胎動であったことに合点がいく。
大仏破壊が起こる前後の旧タリバン政権の最高指導者オマルをはじめ幹部たちの動
向が精緻に語られる。当初はタリバンは遺跡破壊の示唆などしていなかった。それが
ビンラディンとタリバンの力関係の変遷、特にビンラディンとオマルとの主従関係が
逆転していき、ビンラディンの意向で遺跡破壊がなされたのだと著者は結論付ける
(ビンラディンは本著では権謀術数に長けた狂信的テロリストというのが強調された
描き方になっているのが気になったが)。
こうした事実関係の屋台骨をささえる情報提供、証言をするのは、「当時のアフガ
ニスタンの情勢に最も通じた外交官」である日本人の元国連職員である。彼はオマル
とも会談した経験があるという。他にも大仏破壊阻止に動いた交渉者たちに綿密にイ
ンタビューし、その発言を多彩に盛り込んでいく。その構成が絶妙で内容に引き込ま
れる。とにかくまるでプロットの利いた小説を読むようにスリリングである。
しかし、そこが気になる点でもある。まず事実関係を超えてシナリオが描かれ過ぎ
てはいないか、という点だ。確かに読ませるが、読んでいる途中、度々それが気になっ
た。そして、何より著者の立脚点だ。本書はタリバン側と交渉していた外交官側から
の立場から語られていることは否めない。だから大仏破壊は権力中枢と国際政治の出
来事として語られている。取材対象者は知的エリートでモラリストで、それらの人物
の目がフィルターとなる。いわゆる高い目線だ。一方、アフガニスタンで長年、医療
ボランティアを継続している「ペシャワール会」医師中村哲氏から見る大仏破壊は違っ
た状況に写ったようだ。「国民の5パーセントに相当する百万人が餓死寸前に追い詰
められたときに、遺跡破壊で大騒ぎされれば、それが何だと逆に硬化するだろう。
(中略)生身の人々よりも死んだ遺跡に執着する方が異様に思えた」(中村哲著『医
者井戸を掘る アフガン干魃との闘い』より)とタリバンの行為にも一理あると擁護
する。加えて、モフセン・マフマルバフというアフガニスタンの現状を描いた映画
「カンダハール」を作成したイラン人映画監督も同じことを言及している。「文化人
や芸術家は誰も彼もが、破壊された仏像を守れ、と叫んだ。しかし、干魃によって引
き起こされた凄まじい飢饉のためにアフガニスタンで100万人の人びとに差し迫っ
ている死については(中略)なぜ誰もこの死の原因について発言しないのか。現代の
世界では、人間よりも像のほうが大事にされるというのか」(『アフガニスタンの仏
像は破壊されたのではない 恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』より)。こうしたアフガ
ニスタンの現状に詳しい、いわば在野から見た目では、大仏破壊はまったく異なる見
方がされていたことも、きっちりと認識しておかねがならない。

(05年2月記)